2018.9.22 【雀五郎独演会@繁昌亭】

 【雀五郎独演会】

イメージ 1

さて今日はいよいよ雀五郎さん初の独演会。何か月か前に発表があって、2か月前にチケット発売。その後もチケットの売れ行きがとても気になる日々が続き、いろいろと聞いているとコアな落語ファンの皆さんがかなりチケット持っているようだ、というのが分かってきたり、そして、昨日の米朝事務所twitter で1Fは完売しているのが判明、とりあえずほっとしたりと、まあ、雀五郎ファンとしては気をもみ続けた日々だった。それも今日で終わり。後は雀五郎さんがどんな高座を聴かせるかだけ。そこかしこでざわざわした一種異様な雰囲気の客席の中で開演を待った。

慶治朗 / 子ほめ
雀五郎 / 初天神
二乗 / 写真の仇討
雀五郎 / 三十石
仲入り
雀五郎 / 崇徳院

開口一番は慶治朗さん、雀五郎さんのことに少し触れる。ここで後輩にも気を使わせない雀五郎さんのキャラがチラリとみえる。「子ほめ」 は何度も聴いているけれど、今日もトントンと運ぶ。表情も豊かで余裕すら感じられる高座だ。後半はノリツッコミ炸裂で大いに受ける。まずは理想的な開口一番だった。

そして雀五郎さんが上がる。大きな拍手がなかなか鳴り止まない。主役の登場を待っていた客席のテンションは既に相当高く、雀五郎さんが両手で制してようやく拍手が止んだ。しかし、会主が上がった時にここまで拍手が続く会というのにはほとんどお目にかからない。聴き手の期待の大きさを物語っているのだろうか。
雀五郎さん、入門当時の話いろいろ。小噺には堅太郎君も登場して、いい一門だな。そう言えば今回のチラシの写真は兄弟子の雀喜さんが動楽亭の出番の時に撮影したものだ。
そんなこんなで 「初天神」、もちろん雀五郎さんの鉄板ネタだ。僕はこの噺、前半では向いのおっさんとこから帰ろうとする寅ちゃんをおっさんが 「ちょっと待ち!」 と引き留めるところがとても好きなんだけど、雀五郎さんのは、所作と間が抜群で、ここだけでもこの噺を聴く価値ありと思わせる。そして後半にかけてもいいリズムは続き、寅ちゃんに対して度々 「買おたるがな」 という間もしびれる。いかのぼしの場面で「糸買おてこい」 という父親のうれしそうな顔。もう見どころ聴きどころ満載で最強の 「初天神」 だった。

続いて二乗さん、毎月の体力強化の会でもそうだけど、雀五郎さんは自分の会のゲスト枠にはほとんど後輩の人しかつかわない。なんとなく意図は分かるんだけど、僕は例えば南天さんとか呼んでもいいと思うんだけどな。てことで二乗さんも兄弟子雀喜さんとのいい関係にふれてからネタに入る。「写真の仇討」。めったに掛からない噺だけど、最近二乗さんはよくやってるようだ。何て言うか、割と短い噺だし、大きな抑揚もなく進んでいくんだけど、案外落語のいろんな要素が詰まった噺に聞こえた。淡々と運ぶ二乗さんに、客席が少し冷静さを取り戻したようで、後の二席にこれもまたいい繋ぎになった。

そして雀五郎さん、二席目は 「三十石」、寺田屋の浜から。僕はこの噺ロードムービーだと思っているので、できればフルバージョンで聴きたい。特に冒頭の京都名所の件が好きなんだけど、今はほとんど誰もしない。フルバージョンで掛かる率の低さでは上方有数じゃないかな。で、雀五郎さん、最初の船頭の偉そうな物言いがいい。そして、お女中男の妄想、これが長くて楽しい。本筋とは関係ないところに噺がそれて、それが延々と受け続けるてのは 「くやみ」 や 「近日息子」 にもあるように上方落語の得意技だけど、客に長いなと感じさせずに笑わせ続けるのは実は結構難しいと思う。でも雀五郎さん、ここも立て弁的で、強調の繰り返しも楽しくてよかったな。
エロい顔もいい。そこから舟唄はそこそこにして進んでいく。舟唄メインみたいな 「三十石」 はあまり好きじゃない。そして、百姓唄、糸つむぎ唄、わら打ち唄と続くけれど、ここだけあまりリズムがよくなかったように感じた。最後はやや唐突に八軒家に到着して下げ。ここまで30分弱。雀五郎さんの落語は時間あたりの言葉の数が多いから比較的短く終わる。でもこれがいいリズムにつながっていると僕は思っている。

ここで仲入り。そしてトリネタは 「崇徳院」、以前雀五郎さんがゲストで出た会のトークで、好きなネタはと訊かれて 「崇徳院」 と即答していた。それほど思い入れのある噺を最後に持ってきた。珍しく真っ赤の座布団だ。旦那と熊はんの会話から。この頃これを端折って熊はんが若旦那のところに行く場面から入るのもあるけれど、僕はこの冒頭の場面で旦那と熊はんの関係性が分かるから大事だと思う。そして、熊はんと若旦那の会話、いろいろギャグも盛り込みながら、ここもいいリズムで進む。そしてその女性を探しに行く熊はん。ここまでで、熊はんのいろんな表情がたっぷり楽しめる。上方落語では 「てったいの熊」 は主要脇役になるんだけど、 「崇徳院」 ではもう主役級の大活躍だ。大阪中を探しまわる。見つからない。嫁に言う。仕方ないやん、優しい嫁。ところで、と、あんたどうやって探してたん、と訊かれ、口ごもる熊、長い間。「黙って……探してた」 ここで嫁爆発。ここまでの緩急の展開がすごい。この場面だけでも今日のこの噺を聴く値打ちがある。床屋へ行く。座って煙草一服、そしてまた間。で、瀬をはやみー、となる。何度も何度も聴いていてもなんというスリリングな展開。そして下げに向かうんだけど、その前に一工夫、これもよかった。お互い、うちの若旦那や、うちのお嬢さんやと分かる場面はいつもワクワクする。ただやっぱりこの噺、僕は下げはあまり好きじゃないんだけどね。

三席終わった。幕が下りるまで鳴り止まない大きな拍手。第一回雀五郎独演会が立派に終了した。思えば僕は9年ほど前久しぶりに落語ライブに戻ってきたころから、たまたまだけど雀五郎さんにはよく遭遇していた。だけど当時は正直それほど印象に残る人ではなかった。変わったなと思ったのは 「高津落語研究会」 に通うようになってしばらくしてから。4年ぐらい前かな。そしてその 「高津落語研究会」 が来月10月で終わるらしい。この会は元々は雀五郎さんのためにするようになった会ということだったので、ある意味使命を終えたということなんだろうか。初めての独演会大成功と、高津の終了。つなげてみるのは考えすぎかな。
そして雀五郎落語の魅力は、間もテンポも所作も表情も、全然派手じゃなくて、それぞれの振り幅も小さいんだけど、その小さな中でとても細かい表現が為されている点だと思う。これはある程度落語を聴いていないと分かりにくいかもしれないけれど、ここは雀五郎さん圧倒的だと思う。
とにかく良かった。来年の第二回が今から楽しみだ。
終演後は、クールダウンする店を求めて商店街界隈をうろうろしていた人がいっぱいいたのが印象的だった。