2018.10.20 【桂千朝独演会@大丸心斎橋劇場】

 【桂千朝独演会】

イメージ 1

イメージ 2

さて今日は年に一度の千朝さんの独演会。ずっとテイジンホールでの開催だったけれど、なくなったので去年からこの心斎橋劇場に変わっている。で、去年は何かで行けなかったので僕にとっては初めての心斎橋劇場の独演会だ。この会場、文之助さんや南天さんも独演会をやっているので結構来る機会があるんだけど、前方フラットで後方がきつい傾斜という多目的ホールの構成で、以前から決して観やすくないと思っていた。今回は思い切って三列目まで前に来た。すると舞台や高座が低いこともあってなかなかいい感じで、10回以上来て初めてべストポジションを見つけた気になった。
ということで、千朝さん今年も渾身の三席が聴けると楽しみで開演を待った。

米輝 / 時うどん
千朝 / 饅頭こわい
松喬 / 月に群雲
千朝 / たちぎれ線香
仲入り
千朝 / 天狗裁き

米輝さんから。まあ、この人が開口一番だと得した気になる。ネタは 「時うどん」。うどんをとてもうまそうに食べるな。やっぱり達者だな、と思っていたら、後半はえらくまずそうに食べる。見事な 「時うどん」 だった。それと、米輝さんで聴くのは初めてなんだけど、時そば型の一人バージョンだった。上方では吉朝一門以外はほとんどこの型ではしないと思うんだけど、どういう流れなんだろうか。こういうことが気になるたちなもんで。

続いて千朝さん一席目。以前、プロの歌手と、素人のカラオケに交じって一席する、という仕事があって、果たして落語は必要だったのか、と大爆笑。最初のまくらから絶好調な様子だ。そして噺は 「饅頭こわい」。狐が人をだますところをみせる場面で、流れるような立て弁的な語りがとても気持ちよかった。そして最後のシーンも大爆笑。軽く楽しく独演会がスタートした。

次はゲストの松喬さん、襲名後たまたまかもしれないけれど、聴く機会が減っているように思う。高座数も減っていないかな。まくらは野球の話をします、ということでオリックスファンだという話から。ネタは 「月に群雲」 。僕はこの噺が好きで、小佐田さん作の中では、「だんじり狸」 や 「般若寺の陰謀」 と並んで一番好きな噺だな。もちろん盗人噺の第一人者の松喬さんなわけだけど、冒頭の場面から盗人の若い方のとぼけっぷりで大爆笑だ。同じ苗字の家に間違えて入って合言葉がばれている可笑しさもいい。そしてこの噺のクライマックスは、都合三回登場する道具屋の親父が合言葉を言うところの過剰なタメだな。聴いていて快感を覚える代表的なところだ。更に、売りにきた盗品での仕込み、バラシで大いに受ける。予定調和で分かっていても受けるのが、落語の一番楽しいところだ。下げもいい。

四席中入りなので、ここで千朝さん二席目は 「たちぎれ線香」。まくらなしで、線香花代の説明からすっとネタに入る。この噺千朝さんで聴くのは二回目、以前聴いたのは7年前で正直それほど印象に残っていなかった。
若旦那が定吉をつかまえ、話し合いの内容を聴く場面から、定吉の丁寧な説明が若旦那の怒りを爆発させたような流れにみえた。そして部屋に飛び込んだ若旦那を番頭が諫めるシーン。僕はここがこの噺の前半のヤマ場だと思っているのだけど、「お座りやす」 と少しだけ優しく、もう一度 「お座りやす」 今度は少し厳しく。あくまで声を荒げずに、番頭という自分の立場を踏まえたしゃべりが千朝さんとんでもなく上手い。ここだけでももうこの噺を聴いた価値がある。そして、蔵住まい、手紙、100日経過と噺は流れ後半に。若旦那と女将のやり取りの最中に朋輩衆がガヤガヤと入ってくる場面。僕はここで笑いをとって、高座と客席の緊張関係を一旦ほぐしてほしいといつも思っている。この噺はこの辺りになるととんでもなく空気が張りつめてくることが多いのでそう思っているんだけど、千朝さんは持って行き方がとても自然で、過度な緊張は感じられなかった。なので特に笑いが起きなかったのも気にならなかった。そこから最後の若旦那の独白が静まり返った客席に響く。そして下げ。
本当に見事な 「たちぎれ線香」 だった。そしてやっぱり名作だ。

仲入りの後は一席残しで 「天狗裁き」。ここもまくらなしで入る。この噺リピート物なので正直かなり以前から飽き気味なんだけれど、そんな噺でも達者な人で聴くと面白さがまた蘇るんだ。千朝さんの 「天狗裁き」 もその代表的な噺で、最初の場面からお咲さんが元気だ。執拗に何の夢みてたのか追求する。そして夫婦喧嘩。今日は千朝さん、一席目のまくらで少しギャグを言っただけで、いつもの小ギャグはほぼ封印の日だったのだけど、その替わりというか、女房―隣人―家主-奉行―天狗、と男が対峙する5つの場面で、それぞれ表情と所作を形を変えオーバーアクション気味にたっぷりと見せ、大爆笑がずっと続いた。5つの形を次々と見事に使い分けていたのにはうならされた。

予想通りというか渾身の三席で、もうこういう独演会ならいくらでも聴きたい。2か月に一度の太融寺での会のリラックスした空気とはまた違うけれど、今日のお客はみなさん大満足で帰ったことだと思う。千朝さんのような人をもっといろんな落語ファンに聴いてほしいなと思いながら、いい気持で真っすぐには帰れず南森町まで向かったのでした。