2017.10.30 【月刊笑福亭たま・10月号@繁昌亭】

【月刊笑福亭たま・10月号】

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「月刊笑福亭たま・10月号」、今月のお楽しみは、文五郎さん、雀五郎さんという強力な開口一番・二番、そして久しぶりの 「たま通信」。そして古典二席のうち 「胴乱の幸助」 はたまさんでは初めてと、いろいろ盛りだくさんだ。今月も一階はほとんど空席なしで開演した。

文五郎 / 延陽伯
雀五郎 / 初天神
たま / 蛸芝居
たま / 胴乱の幸助
仲入り
一蝶 / 昭和任侠伝
たま / 新作ショート落語~新作ネタおろし ・経済学根問

さて今日も文五郎さんから、二日連続の開口一番だ。近鉄電車と南海電車の話題から 「延陽伯」、今日も所作が大きくて切れ味あるし声もいい。扇子の開き方がきれいだな。半ばまで。

次は雀五郎さん、たまさんから日曜日に急な仕事依頼が来たことで受けて 「初天神」、今シーズン初めて聴く。今年は寒さが早いせいか冬噺ももういろいろ聴いてる。僕のこの噺のポイントは、向いのおっさんが帰りそうになる寅ちゃんを引き止める場面なんだけど、雀五郎さんのはこの 「ちょっと待った!」 と腕をつかむ間が抜群にいい。落語には、このひとつのセリフや所作だけでも聴く価値があるというのが存在するのだけど、雀五郎さんの初天神は正にそれだと思う。後、いかのぼりの手前で終わったけれど、最後まで聴きたかったな。雀五郎さんのはこの件もとてもいいんだから。

そしてたまさん、上がって雀五郎さんへの急な仕事依頼の説明というか言い訳で受ける。そこから学校寄席の話になって、たまさんはたまにしか行かないので学校での受け方がよく分からない、と。ここからネタの話いろいろ。「蛇含草」 の身体が溶けたその後、「堪忍袋」 のばあさん復活してどうなったとか。たまさん、そういう改作はやらないな。創れば面白いと思うけどね。ここでの 「堪忍袋」 のその後の解釈について、SNS で意見が分かれるも、たまさんとは違う認識でいた人のが多かった。これも落語の面白いところで、同じように聴いても全く逆の感性が出てくる。本当に奥が深い。なかなかヘビーなまくらから、一席目は 「蛸芝居」、たまさんでは何度か聴いてるけれど、何と言っても蛸の演じる小芝居、立ち廻りがいい。これまでよりもかなり長く感じた。そして華麗に決まっていた。こういうのを観ると、たまさん芝居噺は余りやらないけれど、もっと本格的なのを観たくなるな。

続いて二席目は 「胴乱の幸助」、僕はたまさんでは初めてだ。どこかでやっていたのかな。この噺、前半の喧嘩仲裁と後半の京都編がどうしてもむりやりつなげた感があるのだけど、終始テーマになってるのは 「割木屋のおやっさん」 の物知らずな様をみんなで笑うというものだ。田舎から出てきて立派な店を持つまでになったけど、遊びを知らずに趣味は喧嘩の仲裁、そんなおやっさんをみんなでおちょくる噺だ。冷静になるとちょっとひどい気もするけど、まあ落語だからそんなこと関係なく、他の登場人物も演者も聴き手もみんなして笑う。でもそれはやっぱり暗黙のうちにもみたいなところがあるんだけど、たまさんのは喧嘩で殴られる方の男に 「かわいそうな人や」 と何度も言わせる。これで、おやっさんのキャラが少し浮き彫りになる。そして稽古屋の件から京都に乗り込んで帯屋の番頭とのかみ合わない会話、ここでおやっさんは 「京都へ来る三十石の中でこの話したらみんな知ってた。そして本にもなってる。この本字が大きくて読みやすい」 と浄瑠璃ファンが喜びそうなことを言う。三十石船の乗客まで使っておやっさんのキャラをつくる。もうかなり愛すべきキャラになっていないか。そして下げは通常。おやっさんは噺の中で最後までみんなにだまされたままで、種明かしすらされずに下げになる。たまさんのでもそれは同じなんだけど、聴き手としてはおやっさんを応援したくなる人が増える、たまさんの 「胴乱の幸助」 だったのでは。こういう噺がポンと出てくるからたまさんの古典は聴き逃せないんだ。むちゃくちゃ良かったと思う。

さてここまで素晴らしく充実した流れで仲入りになった。そして後半は一蝶さん、先代春蝶さんのお弟子さんでベテランの方、僕は今日で聴くのは八席目だ。で、いきなり大々的に客いじりをする。何度か書いてるけれど僕はいじられるのが嫌いで、そんな客層は必ず一定数いる。200人いれば何人いるか。どちらにしてもそういう客を極めて不快にするのが客いじり。だから少なくとも後輩の会にゲストで出てきてそういうことするのはどうなのか。やりたければ自分の会で思う存分いじればいい。そしてネタは 「昭和任侠伝」、この噺も新作の名作の一つだと思うけれど、健さんがどうのとか中途半端に古くなっていないか。リニューアルするのは難しいのかな。

最後はたまさん、新作ショート落語は、後妻業とか出口調査とか、あまり印象に残らなかった。そして新作ネタおろしは 「経済学根問」、京大経済学部出身のたまさんがどんな根問をするのか。ある本を売りたい人がいて、それを買いそうになってる人がいる。こうして商品が流通して利益が発生して、正に経済学なんだけど確かに何か 「秘伝書」 ぽい。でも違うゾーンに伸びていきそうに思えるけど。また近いうちに聴きたい噺だ。

まあ今日は仲入りまでの四席が充実しすぎていたのかもしれない。前半の流れは過去の 「月刊たま」 の中でも屈指の面白さだった。来月も引き続き期待したいな。それと久しぶりの 「たま通信」 やっぱり面白い。毎回は難しいにしてももう少し頻度を上げてほしい。