2017.10.16 【吉坊・奈々福二人会@繁昌亭】

【吉坊・奈々福二人会】

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去年ぐらいから東京で始まったこの二人会、とても羨ましかったのだけど、いよいよ大阪開催となった。吉坊と奈々福さん、落語と浪曲、相性がいいのかどうかもう一つ分かりにくいけれども、ただ間違いなく何かが生れそうな予感はする。攻めるのか受けるのか攻め返すのかかわすのか。展開は読めないにしてもきっととても刺激的な高座が続くのではと思っていた。さあ、一体どんな会になったのか。1Fはほぼ満員で開演だ。

吉坊・奈々福 / あいさつ
慶治朗 / 子ほめ
吉坊 / 初音の鼓~寄席の踊り・ずぼら~
奈々福 / 陸奥間違い  曲師:沢村豊子
仲入り
奈々福 / 甚五郎旅日記・掛川宿  曲師:沢村豊子
吉坊 / 高津の富

冒頭、幕前に二人登場してあいさつ、東京でのこの会の話とか簡単に。奈々福さん、繁昌亭には何度か出ているけれど、二人会という形は初めてととても楽しそう。考えれば吉坊はどちらか言うと二人会の多い人かな。組み方が達者なように思う。

開口一番は慶治朗さん、いつものようにきっちりした 「子ほめ」 なんだけど前半それほど受けず。落語ファンと浪曲ファンが入り混じっている様子の客席構成にもよるのだろうか。でも後半は僕の隣の浪曲ファンらしきおっちゃんもよく笑っていた。

そして吉坊、いろんな芸事の稽古についてあれこれ。自身は能の鼓の稽古をかなり長い間続けていて、もちろんプロじゃなくて素人の稽古だけど、実質的にはその中間みたいな扱いになっていて、いろいろ怒られたりする。プロに対する稽古は全然親切じゃないと。ネタの出てない方の一席何かなと思っていたけど、このまくらならもちろん 「初音の鼓」 だ。する人限られてるけれど、その中でもやっぱり吉坊のが一番だ。 そして、吉坊の落語は芝居噺の端正さ、華麗さがとてもいいのだけれど、滑稽噺のすっとぼけたおかしさもまたかなりのもので、この噺はその代表的なネタかと思う。元々は 「義経千本桜」 に題をとっているのだけど、殿と三太夫と道具屋・吉兵衛のやりとりが爆笑。で、吉坊のとぼけた表情がいい。最後はすべてお見通しだった殿の一言で下げ。これも秀逸だ。
それから 「少し躍らせていただきます」 と 「ずぼら」 、吉坊の踊りいつもながら軸が安定していて柔らかくて、見ていてとても気持ちがいい。

続いて奈々福さん、二人会の緊張感を語って、大阪と言えども旅なので気安さみたいなのもあって、それで繁昌亭でできるのだからとてもいいと。リラックスした空気が伝わってくる。ある程度しゃべりで引っ張った後に豊子さんを紹介。僕は奈々福さんと豊子さんがまくらでも三味線と目線だけで会話してるようにみえるのが好きなんだ。そしてネタ出しの 「陸奥間違い」 に入る。第一声から奈々福さんガシッと客席をつかむ。ここがとてもいい。浪曲聴く快感だ。この噺、奈々福さんんで一度聴いているのだけど、出世した同期の侍に金の無心の書状を家来に持って行かせたところ、誤って伊達家に届いてしまいドタバタになる。でも、結局みんな丸く収まるといういい噺だ。どうも東では落語でもするみたいだけど一度聴いてみたいな。奈々福さん絶好調だ。

仲入り後は奈々福さんもう一席。「甚五郎旅日記・掛川宿」、これも奈々福さんで一度聴いている。尾張の殿様が泊まるから今日は他の客は泊めない旨の貼り出ししてある宿、そこに来た一人のぼろをまとったような年寄、貼り出しをみてカチンときて泊めてくれという。番頭根負けして一両で泊めてやる。これがなんとあの狩野探幽、そして同じようにカチンときたのが通りかかった甚五郎。二人して殿様が泊まる部屋にいたずらで絵をかいて柱に彫物をした。泊まった殿様それを誰の仕業か見抜いて大騒ぎになる。楽しい噺だけど、奈々福さん声が通る通る。そして豊子さん、合いの手入れるリズムと撥の強弱に酔う。ずっと聴いていたくなる。身体ごと持っていかれる感覚、これが浪曲だ。でも落語の甚五郎物とは微妙にキャラが違う気がする。浪曲の方が年齢設定が若く感じられるからなのかもしれない。休憩挟んで二席続いて奈々福さんの浪曲を堪能する。

最後は吉坊、ネタ出しの 「高津の富」 なんだけど、「掛川宿」 聴いていて、この噺 「高津の富」 に何か似てるなと思っていたら、吉坊も 「お互いどういう噺をするかの打ち合わせしてなかったので、これも旅の噺で宿屋がでてきます」、そして浪曲はスケールが大きいとも。「高津の富」 は逆に金持ち風の身なりの男が宿屋を尋ねてくるところから始まる。しかし、まだ浪曲の空気が残っているためか、冒頭は少ししっくりこなかったけど、それほど時間を置かずに高座は落語の色をまといだした。そして舞台は富の抽選をする高津宮へ。ここでまた噺の本筋とは関係ないのに大活躍する人物が登場する。そう、二番富の男だ。僕は 「近日息子」 の謝らない男、「くやみ」 ののろけ男と、三大脱線男と呼んでいる。この二番富の男も妄想全開でどこまでいくねんと突っ走る。吉坊も全くブレーキかけないかのように行くに任せる。聴き手に本筋を一瞬忘れさせるぐらいまでいけば大したものだ。ようやく本来の主人公が再登場して当り富を確認する場面でも吉坊は気持ちよく引っ張る。今日の吉坊は端正なゾーンでなく、おとぼけ二題だ。でもこれもまたとても楽しかった。

ということで質量ともにあまりにもたっぷりな二人会は終わった。もちろん吉坊も奈々福さんも豊子さんも最高だったけど、改めて浪曲のとてつもないパワーを感じた。僕は基本落語ファンで浪曲は年にせいぜい5~6回ぐらいしか聴かないけれど、その都度圧倒される。圧倒されすぎて落語の気楽さにまた癒される。そんなこと考えたら、出番は交互の方が僕は好きかもしれない。どちらにしても今日は第1回となっていたけれど、いつまでも続けてほしい二人会なのは間違いない。
そして落語ファンと浪曲ファンが入り混じったように見えていた客席が終わった時にはひとつにまとまって楽しんだ後のように見えたのが最大の収穫かもしれない。