2016.7.16 【紫のつる@八聖亭】

【紫のつる】

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大阪では2回目の 「紫のつる」 露の紫と林家つる子、この二人が僕の東西女流の推しだ。
タイプは全然違うけれども、アマチュア出身で当時の経歴に近いところがあるというのは前回の第 1 回の時に聞いた。どちらも達者だしキャラもたってるし、この先楽しみだ。今日も二人だけでたっぷり二席ずつ。
まずはトークからスタートだ。

トーク / 紫・つる子
つる子 / 短命
紫 / 船弁慶
仲入り
紫 / 雪の旅笠
つる子 / お菊の皿

まずは二人でトーク、つる子さんミスi d 関連で写真集を出していて、本日販売中だ。

少しマジな話をすると、東京の噺家と大阪の噺家とで決定的に違うのは、対メデイア、対マスコミでの扱われ方だと僕は思っている。書籍、CD、DVD、写真集、雑誌等。CDやDVD出てる大阪の噺家が東京に比べてどれだけ少ないか。でもこれはエリアの問題だからどうしようもないかな。だけどそれを落語の質の問題だと勘違いしたバカな連中が、先日の週刊ダイヤモンド上方落語の事実をねじまげたような記事を書くのだ。たまに取り上げた時にろくに取材もしないで嘘を書くてのは、すくなくとも原稿を書くプロとしては最低だ。わからないのなら書くな。それにつきる。

つる子さんの写真集の話でそんなことを考えてしまった。

話を戻して、トークについては、写真集から、上方落語カレンダーの話、紫さんが十三のママにしかみえないという話、女性二人の、客席も巻き込んだとりとめのないトークが楽しかった。

で、最初はつる子さん、いつも思うのだけど、二人会で最初にトークした後に、別の開口一番はいらないと思う。目当て二人のトークで客席は十分暖まってるし、そこで開口一番出たら逆に冷める可能性が高い。
で、「短命」。東京では演題が「長命」になる場合もあるようだけど、今回は「短命」。
この噺、旦那がなぜ次々亡くなるのかを説明して男が理解するまで、どれだけだれずに引っ張れるかだと思う。間が悪いとさっさと分かれよ、てなってしまう。ためてためて、それを気持ちよく感じさせる。噺家の技量が今日は十分だった。

続いて紫さん、「船弁慶」。先日の東京でのこの会でもこのネタ出していて、どこまでやるのか、やりすぎてすべったらとか考えたけど、もうおもいきりやった。そしたらことの他受けた、らしい。なので今日も思い切りやりますと。
この噺、主役は当然雀のお松なわけで、それを女流がどう演じるのかというのがとても興味があった。
爆発的だ。ひょっとしてこれまで聴いた誰よりも爆発的かもしれない。爆発して、ちょっとすかすような物言いもいい。船に行くことになって喜六がうれしそうだ。
あと、清八が後ろにいるのを知らずにお松がぼろくそに行った後、振り返るまでの間、この噺でここが一番好きなんだけど、よかったけど、もうちょっとだけためてほしかった。
それと、最後の知盛の場面はもっと芝居っぽい方がいいと思う。でも、いろいろ細かいこと書いたけど、全体的にはとても楽しめた。いい「舟弁慶」で紫さんに合ってると思うし、またぜひ聴きたい。

仲入りはさんで紫さんもう一席。大須に出た時泊まったホテルでの幽霊話、これは本当に怖かった。
そこから、越中親不知が舞台の噺、初めてだったけど「雪の旅笠」ていうんだ。五郎兵衛・作のようだ。
短い噺だけど、こちらも怖い。紫さんこういう噺を持ってるのも強いな。
船弁慶、そして中村仲蔵もあるし、新治さんと都一門を中心にして最近なかなか露の一門が目立ってきた。すごくいいことだと思う。そして、五郎兵衛独特の落語世界がこれからきっちり継承されていきそうに思えてくる。
やっぱり弟子はどんどんとらないと。

最後はつる子さん、一席目の「短命」をするに至ったいきさつ、師匠の正蔵さんとさん喬さんとの会にでることになって、という話楽しかった。きっと感慨深かったんだろうな。
そこから、ネタ出しの「お菊の皿」。もちろん上方の「皿屋敷」だ。場所設定は変わっているけど、筋立てはほとんど同じ。だけどつる子さん、これはなんと見事な「お菊の皿」だ。
この噺、僕は結構あたりを引いていてなかなかいいのを聴いてるつもりだけど、そんな東西の師匠連に全然ひけをとらない。怪談ということで黒紋付、こういう時は男着物の方がぴったりとくる。
で、声、所作、視線、全部勢いがあって引きこまれる。最初怖いお菊がだんだん可愛くなってくる様、そして最後クサくなる。そんな変化も楽しかった。

ということで、十分満足な「紫のつる」だったけど、よく女流噺家が女性を演じるのはかえって難しい、て言うけれどずっとそうなのかなと思っていて、今日初めて分かった。それはケースバイケースだ。雀のお松もお菊さんもすごくよかったし、女性が演じてるからこそストレートに伝わってくる部分もあった。やっぱり落語のいろんなフレームが男目線でつくられているのは仕方ないんだけど、女流の噺家さんはそんなフレームをひとつひとつ変えていけばいいんだ。
マチュアでも先日の女性15名のなでしこ寄席の楽しさはとんでもなかったし、これから先の女性の落語の可能性なんて男よりもずっと自由で広いかもしれないじゃないか。
今後も続きそうなので必ずまた来たいと思う。