2016.6.21 【第2回上方落語若手噺家グランプリ・決勝@繁昌亭】

上方落語若手噺家グランプリ・決勝】

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市民の寄付によって関西の文化・芸術を育てて行こうという主旨のもとに展開されている「アーツサポート関西」。
この中で、アート引越センター社長の寺田千代乃氏の寄付によって去年から実現した「上方落語若手噺家グランプリ」10年間の開催が予定されている。
整理番号付きのため、開場の18時前に繁昌亭前に着くと、もう何か熱気のようなものが渦巻いていて、普段の昼席前とは全然ちがう。みなさんそれぞれ応援の人がいるということなんだろう。
開場してそんな熱気がホールの中にiそのまま移動して更に高まっていった。繁昌亭内のいろんなところで話の輪ができている。客席はもう十分に盛り上がった状態でコンテストの幕が切って落とされた。
事前に発表されていた出番順とネタは次の通りだ。

(あいさつ) / 春若

雀太 / 替り目
笑丸 / 浮かれの屑より
ちょうば / 地獄八景亡者戯
雀五郎 / 遊山船
仲入り
喬介 / 壺算
三四郎 / Y と N
たま / 憧れの人間国宝
あおば / ハンカチ
眞 / 蛸芝居

(表彰式) / 文喬

最初に春若さん登場して、簡単な説明。協会の風紀委員長らしい。それにしてもなぜ風紀委員会がこのイベントを仕切っているのか謎だな。

てことで、トップの雀太さん登場。ネタは「替り目」。いきなり酔っぱらいの歌から始まる。「シャシャリコシャンたらシャシャリコシャン♪♪」 定番のとはまた違う。でも爆笑。素晴らしいつかみだ。そこからずっと受け続ける。おなじみの半ばまでなんだけど、「まだおったんか」 までの独白が長めで、ためてる感じがありあり。そこがいいな。
こういうコンテストではトップは絶対不利だと思うけど、さすがの高座ですっと降りた。
客席をのせて、楽屋に気合を入れる理想的なトップだった。

続いて笑丸さん、僕は芸達者ということでは今日のメンバーの中でこの人が随一ではと思っている。
いかにも上方林家らしい佇まいで、その看板ネタを披露。踊りとかの場面でも所作がきれいだ。
また、全体的な身のこなしがいい。動きが軽い。一般的な落語の枠とは少し違うかもしれない。
ただ、ビジュアルも含めてあくは強い。その辺りがコンテストではどう評価されるのか。

三番手はちょうばさん、「地獄八景」だ。ネタの料理の仕方という点ではこの人が一番楽しみだった。
ハルカス、スカイツリーモハメド・アリ、舛添さん。いろいろ出てきて楽しかったけれど、あの渡し賃決める件はあまり面白くないと思う。フルバージョンでも間のびしがちなところだ。

次は雀五郎さん、弟弟子の雀太さん共々期待していた。歯切れよくいい感じでトントンと進んでいったけれども、稽古屋の船が登場する前まで。僕は「遊山船」は碇の模様の仕込み、ばらしがあってこそだと思う。僕も含めてこの噺を好きな人はやっぱりあそこを聴きたいのでは。「替り目」半ばまでとはわけが違うと思う。

この時ふと思ったけど、今日の審査員の人って「替り目」や「遊山船」のこときちんと知っているのかな。

そして前半最後は三語さん、僕が予選を聴いたのは初日だけで、その時の「狸さい」はなかなかいいと思った。
そして今日の「ちりとてちん」は喜いさんのキャラがちょっと違うように感じた。で、竹のキャラとかぶる。そうなると声自体が聴いていて気持ちよくならなかった。冒頭からの大声は悪くなかったけれど。

仲入り後は喬介さんから。そこそこ聴いていると思うのだけど、「壺算」は初めて。今日のためなのか、普段からなのか分からないけど瀬戸もん屋のキャラがとても立っていて楽しい。ずっとちょっと変なままで応対するのが、それこそツボにはまった。瀬戸もん屋が「さてはおたくら始めからから二荷入りが目的やな」と見破るところ。やっぱりこの主人は少し違う。この斬新な解釈をとりながら、下げは普通てのもまたいい。
喬介さんもかなり考えてこの噺を持ち込んだのだろう。相当よかった。

続いて三四郎さん、「Y と N」 は病院の息子とお寺の娘が恋に落ちて、という噺。面白いし、突然30年後ていう展開もいい。押しのあるいい声で口跡もきれいだ。かなりよく出来た新作だと思うんだけど、気になったのは、福笑さんの「蓮の池クリニック」と設定が似かよい過ぎてるてこと。調べたら今年4月のシブラクでネタおろしみたいだけど、たまたまにしてもこれだけ似てる新作、いいのかなと正直思ったけど、いいのか。

そして、たまさん登場。参加資格が去年の15年までから今年20年までに拡大され出られるようになった。そして、絶対優勝すると自分の会の客前で宣言してエントリー。予選は「地獄八景」を8分でやり1位通過。今日は「憧れの人間国宝」。何度も聴いてるこの噺をどう料理するのかと思っていたら、僕らからしたら案外普通やった。そして、注目だったあのお方は今回は登場しなかった。
たまさん的な意味できっちり正統に攻めてきた感じ。下げもいつも通り。
でも客席は大爆笑だった。

次で9人目、あおばさんだ。「ハンカチ」は繁昌亭の上方落語台本コンテストの入選作で、過去の入選作のなかで、今一番普通に掛けられてる噺だ。しかも複数の演者によって。作者が二丁拳銃という漫才師の人で、噺家さんからしたら同じ芸人仲間ということもあるのかもしれないけれど。
いきなり、しつこいくどい夫婦喧嘩の場面から始まる。そして商店街の、愛を叫ぶイベントに夫が参加することになり優勝。下げもホロリとくる。
とてもいい新作人情噺で、喬太郎さんのそんな路線の作品を思い出した。ハンバーグとかね。
で、あおばさんもこういう噺するようになったのかと、少し感慨深かった。

最後は眞さん、決勝唯一の女流で、予選は初日のトップ決勝はトリ。極端なくじ運だと。
「蛸芝居」は実はネタおろしの時に聴いている。三番叟とか所作に切れ味があってよかった。目もいい。観てるうちに女を意識しなくなった。それでいて蛸の顔のとぼけっぷりもいい。
やっぱりもう一人ぐらい女流の人に残ってほしかったな。

これで全員終わり。審査のためと幕が下りた。約15分ぐらいか、休憩にしないで客席の緊張感を維持する。これは正解だった。そして、再び幕が上がり表彰式の進行は文喬さん。最初の春若さんもそうだけど、こういう若手の会に師匠連が協力してるてのもまたいい。
ここでまず審査員の登場。在阪テレビ5局とNHK,ラジオ大阪の7人舞台に出て名前を紹介。これがないと誰が審査してるねん、とすっきりしなくなる。でもお一人ぐらいは何かしゃべってほしかった。
続いて寺田社長が登場し挨拶。この時客席からとても大きな拍手。皆さんよく分かっている。
次に文枝会長登場し、文喬さんから結果発表。

優勝・笑福亭たま
準優勝・笑福亭喬介

二人だけだった笑福亭のワンツー。文枝会長から表彰状、賞金、賞品が渡される。
その後文枝さんとたまさんが握手。いいシーンだった。写真撮りたかったな。

最後にたまさんのあいさつ。本当にうれしそうだった。僕もちょっとうるっとなった。

これですべて終了。順当な結果だろう。予選の時は正直たまさんここに入ればモノが違う。決勝も圧勝するのではと思っていたけど、さすがに予選の時ほどの圧勝感はなかった。
噺家としての全体的なポテンシャルで言えばやっぱり今日の顔ぶれならたまさんが圧倒してると思う。でもコンテストはそれを競うのではなく、あくまで今日の一席の勝負。だからこそ番狂わせもあり得るんだけど、そんな中で絶対優勝すると宣言してきっちり優勝したというのはすごいと思う。
そして喬介さん、この人もいろいろと引き出しの多い人だろうけれども、速攻で客席をつかむのがとてもうまい。
12年目で先がますます楽しみだ。
もう一人、表彰がなくて残念だったけど、トップであれだけ客席を沸かせた雀太さん。この会をいい方向に引っ張っていくのに果たした役割は大きかった。

やはりこの三人が今日のリーダーだったと思う。