2016.6.2 【福笑仁智二人会~仁義なき戦い・繁昌亭編~】

【福笑仁智二人会~仁義なき戦い・繁昌亭編~】

イメージ 1

落語に出てくる反社会的職業の代表といえば、泥棒とやくざ。ただどちらもあまり怖くない。もちろん本当に怖ければ落語にならないわけで、当然おちょくりの対象になる。まあ、落語がおちょくるのは、こうい人達だけでなく歌舞伎や浄瑠璃、講談、そして政治家、タレント、同業の芸人、いろんな権威をおちょくりまくる。それができるのが落語という芸事の素敵なことろで、世間の健全性のバロメーターだと僕は思っている。
そして、今日はずばりやくざの新作5本、全部聴いたことあるけどとんでもない噺ばかりだ。
福笑さんと仁智さん、笑福亭を代表する新作派に開口一番がたまさん。これ以上ない顔ぶれで、これ以上ない爆笑やくざ噺を集めた会。始まる前からクラクラしそうな期待で胸がいっぱいだった。

たま / 伝説の組長
仁智 / 兄貴の頭
福笑 / 浪曲やくざ
仲入り
福笑 / 狼の挽歌
仁智 / イクジイ

たまさんは、師匠の会の開口一番で出た時いつもむちゃくちゃ面白い。客席を暖めるなんてものじゃなく、いきなり大爆笑にたたきこんで、後のハードルを上げまくる。そして、それを更に乗り越えて受けまくる福笑さん、てのがいつもの形だ。
で、たまさん。今日のネタは「伝説の組長」初めて聴いた時大笑いした記憶があるけど、めったに掛からない。
組長と兄貴と新入りの三人で噺が進む。酔っぱらって機嫌のいい組長が、過去の武勇伝を新入りに語りだすんだけど、プロセスが全く出てこないで信じられない結果ばかり出てくる。
そうしている内に新入りが対立する組織から狙われている組長の影武者を務めることになり、そこに姐さんがからんできて最後は三弾落ち、四段落ちか。すごくデコラティブな構成の爆笑譚でもっと掛けてほしい噺だ

続いてここで、今日は福笑さんではなく仁智さんだ。
今日も野球のまくらが始まるけれども、ネタ出しなので「スタディベースボール」の心配はしなくてもいい。
ネタは「兄貴の頭」。これも兄貴と手下と新入りというやくざ三人の噺。兄貴の髪が少ないことを手下が気を遣いすぎて使えない言葉が続々でてくる。で、それをいちいち新入りに説明する。そこから次はかつらをかぶる展開になりまた大騒動に。さげもかつらからピタッと決まる。
それにしても古典新作を問わず、主人公が三人組てのは落語の王道だな。

次の中トリは福笑さん。最近どうも声の調子が悪そうだなと思っていたのだけど、今日もまだあまりよくなさそうだ。で。噺は「浪曲やくざ」。親分が子分を集めた中で浪曲好きなのが一人いて、何かにつけて節を回す。そんな中に男同志の何と言うかそんな事も含めて噺は流れ、相手の組長を殺すとかいう噺になって、浪曲でどんどん盛り上がっていく。しかし福笑さんうなりだしたら調子が良くなってきた。
そして下げは予想通り 「ちょうど時間となりました」。

仲入り後は続けて福笑さん、いつもトリだからこの位置で聴くことはまずない。まくらは舛添さんの話。とにかくせこいことするなと。
そこから 「狼の挽歌」 。今人を2人殺したやくざの2人組がタクシーに飛び乗って運転手を脅迫して人質にとる。しかしこの運転手がなかなか肝が据わっていて段々立場が逆転してくる。「撃てるもんなら撃ってみい。わしがおらんようになったらおまえらなんか警察にハチの巣やぞ」。
ここで福笑さん「明日に向かって撃て」のラストの話をし出した。ポール・ニューマンロバート・レッドフォード、かっこよかったな。落語でこんな40年以上前の映画を思い出せるのっていいな。でも僕としてはキャサリン・ロスの名前も言ってほしかった。
このあたりでは福笑さんもう絶好調で声の調子悪いのはどこかに吹っ飛んでしまったようだ。
そして、「人をのせるのは上手いはず。運転手やから」でさげ。大熱狂の噺をうクールダウンさせるような福笑さんのこんな下げが好きだな。

最後は仁智さん、「みなさんはこれが終われば解放されますけど、僕はまだ一仕事、酔いたんぼの相手が残ってます」。今日なんかどんな打ち上げになるんやろか。
で、噺は「イクジイ」。しかし、これだけ笑い倒してまだ  「イクジイ」 が残ってるとは何という会だ。
この噺、仁智さん新作の鉄板ネタ「源太と兄貴」の後日譚で、70才になった兄貴がイクジィに徹して孫の面倒をみるという設定。前半は年をとった兄貴と源太のパワーあふれるやりとりで笑わせる。ポリデントで爆笑。
そこから孫の学校の宿題とかテストネタに。ここでも速射砲のようにギャグが連発される。場内大爆笑の渦。
しかし、まだ第三幕がある。町内のイクジイ対抗クイズ大会。柴田音松氏ーこれが兄貴の本名ーは珍回答を次々答え、これでもかと笑わせまくる。で、「私恥ずかしくて町内歩けない」という娘に、クイズを区画した人が柴田さんのおかげでクイズが盛り上がりましたと感謝して。これもきっちりした下げで終わる。
この噺元ネタの「源太と兄貴」同様にリズムとスピード感がすごいんだけど、「イクジイ」は後半それが崩れないで人情噺的な要素も加わってくるので、本当にすごいネタだ。

てということで5席終わった。もうしばらく落語はいいかと思うぐらいお腹いっぱいだけど、すごかったのはお二人とも失礼だけどあの年で、二席目の方がはるかにパワーアップしているってことだ。
福笑さんも仁智さんも、僕より年上だけど「俺より先に死ぬなよ」と思っている噺家だ。