2015.11.19 【九雀の噺・芝居噺の夕べ@繁昌亭】

 【九雀の噺・芝居噺の夕べ】

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九雀さんの次なる企画は「芝居噺の夕べ」。歌舞伎役者さんが落語の芝居噺をするということで、ずっと待ち遠しかった会だ。ちなみに僕の歌舞伎へのスタンスは、正直言うと数回観たけど、やっぱり歌舞伎てのは役者がほぼすべてという感じで、文楽のように一発ではまったりはしなかった。ただ落語の芝居噺は結構聴くけど、噺家さんがしても、切味とか臨場感とか達者かそうでないかの差はくっきりと出る。それを歌舞伎役者の方が演じると一体どういうことになるのか。これに興味がつきなかった。開演20分前に入ると、雰囲気が全然違う。歌舞伎ファンばかりに思えてちょっと緊張していたけど、10分前ぐらいから知った顔が登場しだしてアウェー感はなくなってきた。

口上 / 上村吉弥、上村純弥、九雀
二葉 / 雑俳
純弥 / 蛸芝居
噺劇 / 淀五郎   市川團蔵-鍋島 浩
            市川桃太郎ー二葉
            沢村淀五郎-長橋遼也
            役者A-江村修平
            役者B-竹本小鉄
            中村仲蔵-九雀
            黒衣-国木田かっぱ
中入り
吉弥 / 七段目
九雀 / 文七元結

口上で三人並ぶ。三人一緒に下手から上手に視線をとばす。そして正に型にはまった口上。これが歌舞伎流の様式美なのか。結構ぞくっと来る。九雀さんと吉弥さんの縁は、九雀さんが23年間解説を続けている南座の歌舞伎鑑賞教室。今年の5月の開催時に吉弥さんが落語も勉強したいということで、九雀さんはそれなら実際に高座に上がりましょうとなって繁昌亭を押えて、お弟子さんの純弥さんも一緒にすることになったらしい。九雀さんが「純弥さんは来月折之助襲名なので純弥として最後の舞台が繁昌亭です」これは珍しい。で、なんか落語の口上と違ってえらく凛々しくて今夜の会に期待が高まる。

落語一席目は二葉さん、いきなり若い女流の登場で客席ざわつくも白木みのるで受ける。年配の人にはいいつかみだ。彼女が「君、白木みのる知らんやろ」て、突っ込まれる余地のあるのもいい。
ネタは雑俳。何度か聴いてて、江戸ネタだけどあやめさんから来てる。声が高いって言ってたけど、二葉さんの声は前に出る声、それがいい。後の噺劇も含めて、二葉さんの起用大正解だったと思う。

続いて純弥さん、なんと「蛸芝居」だ。確かに芝居噺やけど、蛸が芝居するっていう滑稽噺部分のウエイトも大きくて難しいと思うんやけどな。純弥さん上がると、「みよしやっ!」 「みよしやっ!」 「みよしやっ!」て声がかかりまくる。なんか気分が盛り上がってきたぞ。短めのまくらでは少し声が不安定だったけど、ネタに入ると一変だ。圧倒的にいい声になって、冒頭の旦那が三番叟で丁稚を起こす場面から、所作のバランスの良さ、大きさ、切れ、素晴らしい。観ていてうっとりとしてくるほどだ。その後この噺は芝居部分と落語的な部分が交錯して進んでいくんだけど、落語部分でも表情の変化とかすっとぼけた口ぶりとか、かなり落語の稽古もしはったんやろなと思った。襲名前の忙しい時に、てぼやいてたけど、純弥さん本人も楽しんではった。

次は噺劇、九雀さんの公演で一度だけ観たことがある。僕は若い頃から演芸好きの演劇嫌いだったので、あまり観劇の習慣がない。それもあるんだけど前に観た時はあまり楽しく感じなかった。でも今回は純弥さんの流れもあったのか、役者さんたちの声には反応できたし、仲蔵と淀五郎のシーンでは、二人の場面を二人でする当たり前のことにも引き込まれてそれなりに楽しくはあった。

中入り後、いよいよ吉弥さん。もちろん再び 「みよしやっ!」 の大歓声だ。あがって座って頭を上げて、しゃべり出した第一声から、この人の上方言葉がすごくいい。この感覚は初文楽太夫を初めて聴いた時に近い。僕ら上方ネイティブだから感じることだと思う。まくらで自分は和歌山出身だけど子供のころから歌舞伎が好きで、新聞配達をして大阪まで観にきたという話をされてた。その時の佇まいが何とも言えずよくて、すっかり引き込まれた。
で、「七段目」。僕は吉朝一門を始めいい「七段目」をかなり聴いてるつもりやけど、吉弥さんのはもうそういう段階ではない。落語じゃない。もちろん普通の芝居でもない。圧巻のひとり芝居だなと。普段七段目聴いてる時にはすっと流れていく芝居の部分がもうくっきいりと浮かび上がって、この噺にはこんだけたくさんの演目が盛り込まれてた事改めて感じた。歌舞伎ファンの人でも吉弥さんのこんな舞台観る機会ってそんなにないのでは。とにかくいいものをみせてもらった。

最後は九雀さん、吉弥さんが客席を自分の色に染め上げた後でトリとして高座にあがる。九雀さんのこういう場面、この間の八聖亭でもみたな。九雀さん、吉弥さんの七段目を「噺家とセリフは同じなのに時間がすごく長くなってました。やっぱり役者さんが本息でするとこうなるんですね」、と。そして、「らくだ」とか「芝浜」とか、落語から歌舞伎になった演目もいろいろあるんですけど、中でも一番有名な「文七元結」をします。こうして客席の興味を九雀さんに持ってくる。文七はもちろん江戸ネタなんだけど、最近は上方でもする人がいて、九雀さんでも一度聴いてる。その時の印象ではうまく上方噺に再構成してるなと思った。ご存知のように落語のネタが江戸⇔上方と行き来するのは今に始まった事じゃないけど、ただ場所や地名だけ変えるだけじゃなくて空気感というか後背的な部分までつくり直せたらなと思う。今日の文七元結、九雀さん最初珍しくちょっと硬いかなと感じたけど、すぐに噺が流れだして新町とか道修町とか四ツ橋とかのこっちの地名の設定もすっと入ってきた。いつもの九雀落語で大爆笑でお開きだった。

きっと楽しい会になると思ってたけど、予想以上にいい会になった。もちろん吉弥さん純弥さんていう二人の役者さんの力を僕が知らなかったこともあるけど、いい会になった一番の理由は九雀さんのプロデュース力だと思う。この間、八聖亭でした奈々福さんとの浪曲コラボ、去年繁昌亭での前代未聞の吹奏楽団との共演、こんな公演を一から作り上げて客席に大きな満足感を届け続けるのは素晴らしいと思う。次は12月八聖亭でのナオユキさん、はだかさんとのコラボ。こっちも楽しみだ。

最後に、今日はやっぱり歌舞伎ってすごいなと感じた日でもあり、上方の芸事のひとつとしてもっと上方歌舞伎に接していきたいと思ったのでありました。