2015.8.3 【繁昌亭大賞各賞受賞者新作落語会@繁昌亭】

【繁昌亭大賞各賞受賞者新作落語会】

繁昌亭で定期的にやっているこの会、本来は動楽亭で2か月に一度ぐらいしている新作ネタおろしの会と同じメンバーの会だ。繁昌亭の方はネタおろしではない。今回は今日8月3日が五代目文枝さんの襲名記念日ということで、それにまつわるテーマになったと。で、6人中唯一直弟子のあやめさんが、文枝さん作の「熊野詣」をかけるのがメインだ。新聞にも取り上げられたりして、いつものこの会よりかなり客が多い。

三金 / お忘れ物承り所
遊方 / たとえばこんな誕生日
たま / お通夜
南湖 / 登山家高山登
中入
三風 / ああ定年
あやめ / 熊野詣

この会は最初に全員が並んでネタ順を決めたりするのだけど、今日はもう決まってた。そこで本日のお茶子さん紹介。誰かと思ったら、五代目文枝さんの孫で先日きん枝さんに弟子入りした小きんさんだった。さっそく、先輩方に鍛えられてたけど、そういう血筋の人が落語界に入ってくるのは僕らとしても楽しみだ。
最初は三金さんから。「お忘れ物承り所」は師匠の三枝さん作だけど、このネタ選んだのは文枝さんと三枝さんの大阪駅での実話エピソードが下敷きになっているからと。これ昨日も聴いたんだけど、三金さんのがずっと楽しかった。本来笑いどころの多いネタだったと改めて認識した。
続いて遊方さん、文枝さんとの思い出は、若いころ玉出界隈で文枝さんの近所に住んでて、近くのピエロていうロックっぽい喫茶店に連日通ってた。そしたらそこは文枝さんの行きつけの店でもあって、いつもピラフをおごってもらってたと。で、実はその店当時の大阪のミュージシャンの間では相当有名な店で、憂歌団とか上田正樹とか先日亡くなった石田長生とかが出入りしてて文枝さんと交流があった。お互いにどれだけの大物かはっきり分からずに付き合ってたようなところもあって、意外な場面で驚いたりとかいろいろあったらしい。なんかすごくいい話だ。なによりびっくりしたのは、文枝さんの落語会で、突然三味線の人が来れなくなって、その時たまたま楽屋にいた石田長生がギターでお囃子をつとめたことがあったと。ほんまかいなと思わなくもないけど、素敵な話なのでそのままにしておこう。
遊方さん、ネタは誕生日に一人で過ごしてて交通事故にあった男が救急車で運ばれる噺。すごく面白かったけど、今日の遊方さんは僕的にはまくらの破壊力がとんでもなくて、ネタは少し目立たなかった。
次はたまさん、まくらでまたもや喫茶ピエロ登場。文枝さん本当に行きつけだったんだな。文枝一門の人がみんな忙しくて、たまさんが同期の喬若さんと一緒に運転手をしたことがあって、仕事終わった後にピエロに連れて行ってもらった。2時間ぐらいの間文枝さんはマスターとずっと話してて、たまさん喬若さんはサンドイッチを食べながらべらべらしゃべるわけにもいかず、いごごち悪そうにしていたら、「まだ帰れへんのか」と言われたと。
ネタは「お通夜」。今見たらもう聴くの4回目だ。今日が一番よかった。少しアウェーな客席にも小椋佳の歌もよく受けてた。何がちがってたかと言うと正直よく分からないんだけど。もう完成品としてレギュラー入りだな。
南湖さん「登山家高山登」 この人の噺は演題からしていい。何かをわくわく期待させるようなのがいつもついてる。いろんな人物や、いろんな山や、いろんな状況が出てきて、展開が急で面白いけど何かごった煮的だと思っていたら、いくつかの噺を合わせてるって教えてもらった。なるほどだ。でも面白いネタになっていくと思う。

中入り後は三風さん、文枝さんの孫弟子になるけど、若いころ一門の宴会で幹事してるとき少し不手際があって師匠連先輩たちがワーワー言う中で文枝さんが態度でかばってくれたと。そして、亡くなる半年ほど前に愛宕山をつけてもらった。そう言われると新作の会だけど、愛宕山聴きたくなるじゃない。噺は「ああ定年」。定年迎えたおとうさんがどこにも行き場がなくなってていうお決まりの噺で、僕らもそういう年代だけど一生懸命楽しく遊ぶのにもエネルギーが必要なので、金と時間があったら誰でもできるわけじゃない。落語のネタに少しマジで反発を感じた。自分はそんな風にはならないという確信があっても、これからこういうことにも折り合いが必要になるんだなと。あまり笑えなかったな。

最後はあやめさん。いよいよ「熊野詣」だ。文枝さん作の新作だけど、弟子の中では文太さんが数回かけただけで、他の人が取り組んでないのでやろうと思った。それで、熊野に行って、師匠が歩いた後を追っかけてきたと。僕も一度だけ行ったことあるんだけど、那智大社熊野本宮大社、すごく神々しいというか霊験新たかというか、落語の世界にはまりそうな気がしないけど、考えれば上方落語には詣りものがいろいろある。伊勢詣り、野崎詣り、天王寺詣り……。なら熊野もと文枝さんが考えたのだろうか。あやめさんは比丘尼(調べてこう書くの今知った)と言われる尼さんのの表情が少し怖くて怪しくてきれいでよかったな。笑いどころももちろんあって、あやめさんにはどんどんかけていってほしいと思う。

今日は特別なテーマのあった会だけど、みなさんうまく取り入れてて、このメンバーの柔軟さ達者さを改めて感じた。これからもこんな企画を時々やっていただきたいです。